高尾山頂
■指定されている場所:八王子市
高尾山は、八王子市にある標高599mの山で、古くから霊山として信仰の対象となってきました。それと共に、高尾山は「明治の森高尾国定公園」に指定されており、春の桜、夏の新緑、秋の紅葉、冬は「シモバシラの氷華」やダイヤモンド富士など、四季折々の美しい自然を楽しむことができます。新宿から電車で約1時間で行けるアクセスの良さ、また低山で登山道が整備されていて山頂まで短時間で登れるため、ハイキングや遠足・山登り初心者の登山入門に最適な山です。2007(平成19)年に発行された「ミシュラン・ボワイヅェ・プラティック・ジャポン」で高尾山が最高評価である「三つ星」を獲得したため、外国人旅行客にも人気のスポットとなっており、「世界一登山客の多い山」とも呼ばれています。
高尾山には「高尾山薬王院有喜寺」があり、信仰の山として古くから参拝者が絶えませんでした。744(天平16)年、聖武天皇の勅命を受けた行基(ぎょうき)により開山されたと伝えられています。創建当初、薬師如来を本尊としたため「薬王院」の名となりました。後に、薬王院には飯縄権現(いづなごんげん)が祀られるようになりました。戦国時代、飯縄権現は「戦神」として崇敬を集め、北条氏照も熱心な高尾山の信者でした。ちなみに、飯縄権現の従者は天狗なので、この山にまつわる様々な天狗伝説が残っており、薬王院には大天狗や小天狗(烏天狗)の像も置かれています。
高尾山の登山には幾つものコースがあります。起点となるケーブルカー乗り場の清滝駅までは、京王線・高尾山口駅から徒歩約5分です。
サル園・野草園
「1号路」(表参道コース) は、薬王院へ参拝するための表参道を通る3.8kmのコースです。ケーブルカーやリフトを使えば近道をすることができます。ケーブルカーの高尾山駅から数分歩くと「サル園・野草園」があります。サル園には約70頭のサルがいて、ユーモラスなサルたちの生態を観察することができます。野草園には、希少種を含む約300種類の野草が栽培されています。
たこ杉(蛸杉)
その先の沿道には、まるでタコのような形をした樹齢450年、高さ37mの巨大な「たこ杉(蛸杉)」が現れます。その昔、高尾山の参道を造成している頃、根が張って邪魔になるので切り倒すしかないと話しているのを聞いた杉の木が、たった一晩で根をたこの足さながらにぐにゃっと曲げたので切り倒されずに助かったという伝説が伝わっています。その先の「浄心門」を通過すると、108段の石段からなる急な「男坂」と、なだらかなスロープ状の「女坂」の二つの道に分かれます。坂を登り切ると二つの道は合流します。薬王院の山門前の参道には推定樹齢700年になるという十数本のスギの大木が並んでいます。中でも「天狗の腰掛杉」と呼ばれるスギはひときわ大きく、その枝に天狗が腰かけて参拝者を見守っているという伝説があります。「高尾山のスギ並木」は都内最大のスギ並木であり、東京都の天然記念物に指定されています。
山門(四天王門)をくぐると手水舎や天狗の像が現れます。さらに登っていくと、薬王院の中で最も大きな建物である「高尾山薬王院本堂」、いわゆる「大本堂」にたどり着きます。現在の建物は1901(明治34)年の建立です。大本堂は寺院であり、その前には寺を守護する仁王(金剛力士)像を安置した「仁王門」が置かれています。壁面には見事な彫刻が施されています。さらに上には、「薬王院飯縄権現堂」、いわゆる「本社(ほんやしろ)」があります。1729(享保14)年に建立された入母屋造の本殿と、1753(宝暦3)年に建てられた拝殿と幣殿(へいでん)をつないだ権現造(ごんげんづくり)という形式の建物です。壁面には彫刻が施され、きらびやかな彩色がなされています。本社は神社なので、その前には鳥居があります。さらに階段を登ると江戸時代初期に建立された「奥の院」(高尾山不動堂)があります。本社も奥の院も東京都の有形文化財です。
高尾山頂からの富士山の眺め
奥の院の裏手からさらに登っていくと高尾山の山頂に着きます。山頂は広場になっており、茶屋や休憩スペースがあります。広場の中央には、高尾山周辺の自然に関する情報を提供している「高尾ビジターセンター」があります。冬至の時期の山頂からは、富士山頂に日が沈む「ダイヤモンド富士」を見ることができます。
「2号路」(霞台ループコース)は、サル園を中心に高尾山の中腹の「霞台(かすみだい)」を一周する900mのコースです。日当たりの良い南斜面にはカシやヤブツバキなどの温暖な気候の場所に生えている常緑広葉樹が、北斜面にはイヌブナやブナ、カエデなどの寒い地域に生えている落葉広葉樹が見られ、わずかな場所の違いによって植生が変化することを観察できます。
「3号路」(かつら林コース)は、浄心門から高尾山の南斜面を抜けて山頂に至る2.4kmのコースです。紅葉の頃、この道を通ると黄色く色付いた「カツラ」(Cercidiphyllum japonicum)の落葉から「綿あめ」のような独特の甘い香りがほんのりと漂ってきます。
みやま橋
「4号路」(吊り橋コース)は、浄心門から高尾山の北斜面を歩いて山頂に至る1.5kmのコース。途中には高尾山で唯一の吊り橋である「みやま橋」があります。
シモバシラの氷華
「5号路」(山頂ループコース)は、山頂のすぐ下を一周する900mのループコース。冬には「シモバシラの氷華」を観察できるスポットがあります。ここでいうシモバシラとは通常の霜柱のことではなく、「シモバシラ」(Keiskea japonica)というシソ科の多年草のこと。冬の時期、茎は枯れても地中の根は生きていて、土中の水を根から吸い上げて茎の道管に送り続けます。早朝、その水が茎の部分で凍って花のような形になります。
びわ滝(琵琶滝)
「6号路」(びわ滝コース)は、小川に沿って歩く3.3kmの自然あふれるコース。途中、修験者(山伏)が滝行を行なう「びわ滝(琵琶滝)」に立ち寄ることができます。鳥の鳴き声や沢のせせらぎを聞きながら、自然を満喫できるコースです。岩の上は滑りやすいため注意が必要であり、登山靴がおすすめです。
「稲荷山コース」(見晴らし尾根コース)は、高尾山の山頂と清滝駅の間の3.2kmのコースで、八王子市街を含む関東平野を一望できる「稲荷山展望台」があります。
「高尾山・陣馬(場)山コース」は、高尾山から城山、景信山を通って陣馬山へと尾根を歩く15.3kmの奥高尾縦走路です。陣馬山(855m)の山頂からは富士山、相模湾の見える360°のパノラマが展望できます。
高尾山口駅から徒歩約4分の場所に、2015(平成27)年に開館した「TAKAO 599 MUSEUM」は、高尾山の豊かな自然や歴史を伝えるミュージアムです。名前の「599(ゴーキューキュー)」は、高尾山の高さ599mからつけられました。「NATURE WALL」という展示では、高尾山の豊かな自然の象徴である「ブナ」の木を囲むように、高尾山に棲む動物たちの剥製が壁に展示されています。この壁を利用して、プロジェクションマッピングの手法によって投射された四季の映像も定期的に上映されています。「NATURE COLLECTION」では、植物やきのこ、昆虫の標本を16の展示台に乗せて展示しています。約200種にのぼる植物やきのこは、アクリル樹脂に封入されて、まるで生きているように新鮮な状態のまま美しく展示されています。さらには、昆虫たちの飛んでいる様子を観察できる展示台も必見です。また、ミュージアムショップ「599 SHOP」では、多摩産材を利用したオリジナルグッズを含むおしゃれなお土産が多数販売されています。壁面の巨大なホワイトボードには、今どんな動植物や昆虫が見られるか、今どこでシモバシラの氷華が見られるかといった最新情報が掲げられています。
TAKAO 599 MUSEUM
撮影協力 TAKAO 599 MUSEUM
NATURE COLLECTION
撮影協力 TAKAO 599 MUSEUM
NATURE WALLのプロジェクションマッピング
撮影協力 TAKAO 599 MUSEUM
アクリル樹脂封入植物標本
撮影協力 TAKAO 599 MUSEUM
ストップモーションのような昆虫標本
撮影協力 TAKAO 599 MUSEUM
高尾山は水が極めて豊富であり、冷温帯と暖温帯の植物の分布域の境に位置するという地理的な好条件に加え、信仰の山ゆえに殺生禁止であったため、観光客が多いにも関わらず今も多様な生物が息づいています。豊富な種類の植物が多様な昆虫を養い、それを食べる様々な鳥がここに集まっているのです。高尾山の植物は約1600種でその種類は日本有数。高尾山で発見された植物も多数あります(イギリス全体で約1600種であることと比べると、その数字は驚くべきものです)。高尾山に生息する昆虫は、約5000種ともいわれています。大阪の箕面(山)・京都の貴船(山)と並んで日本三大昆虫生息地の一つとされています。鳥類は、水鳥・渡り鳥を含めて100種以上、哺乳類は約30種を高尾山で見ることができます。それゆえ、高尾山は「日本有数の生物多様性の山」と呼ばれているのです。