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 地域資源紹介

扇池
扇池

南島

■指定されている場所:小笠原村

南島は、貴重な自然景観が観察できる無人島。小笠原諸島・父島の南西1kmの沖に浮かび、長さ約1.5km、幅約400mの石灰岩でできた沈水カルスト地形となっています。「カルスト地形」(Karst:ドイツ語)とは、石灰岩などが雨水や地下水により溶解・侵食されてできた地形のことで、「沈水カルスト地形」はそのカルスト地形が海中に沈下したもの、もしくは沈下しつつあるもののこと。南島や母島の石門一帯などに見られ、日本では珍しい地形で、国の天然記念物に指定されています。

南島の地理的な特徴

ラピエ
ラピエ

南島周辺は、漸新世初期〜中期(3400〜2700 万年前)は浅い海が広がり、サンゴや有孔虫のような石灰質の殻をもつ生物がサンゴ礁を作りました。そのサンゴ礁の化石が固まって石灰岩の地層が生じます。やがて地殻の隆起により南島周辺が陸化しますが、石灰岩は雨水などで溶解・侵食を受けやすく、すり鉢状のくぼ地が多数生じました。このようなくぼ地を地質学では「ドリーネ」(Doline:ドイツ語)といい、カルスト地形の特徴の一つです。次いで南島付近が沈下したため、南島周辺の海底はドリーネのくぼみが多数存在し複雑な形をしています。ドリーネとドリーネの間の石灰岩が溶け残った部分は、するどく尖ったやせ尾根となります。このやせ尾根のことを地質学では「ラピエ」(lapiés:フランス語)といいます。南島には、長年をかけて風化し鋭くとがったラピエが多数見られます。南島周辺の海域には多数の岩礁が突き出ていますが、これらも丸いドリーネの周囲にあったラピエの名残りのため、岩礁はしばしば弧を描いて並んでいます。

扇池と扇浜

ヒロベソカタマイマイの半化石
ヒロベソカタマイマイの半化石
(左上の一番大きい貝)

南島の「扇池」は、岩場に波の侵食でできたトンネルがあるため、池というよりは湾です。扇池と、その砂浜の「扇浜」は元々はドリーネでした。ここはエメラルドグリーンの海と白い砂浜からなる美しい風景のため、父島の人気スポットの一つとなっています。扇浜はウミガメの産卵地にもなっているため、産卵期にはウミガメの足跡が砂浜に残っています。

扇浜には、「ヒロベソカタマイマイ」の半化石が数多く見られます。遠い昔に絶滅した化石種と思われていましたが、数百年前まで生きていたことが近年わかってきました。ここの化石も炭素年代測定の結果、1000~2000年前のものと判明しています。南島では、化石や動植物等すべての採取は禁じられています。

陰陽池とサメ池

サメ池
サメ池

扇池近くにある「陰陽池」は、淡水と海水の混ざった汽水湖です。台風時には海水が流入して塩分濃度が上がり、通常の降雨では下がるため、短期間で水質が変化し、水生生物は加入と消滅を繰り返しています。ここには、渡り鳥が運んだと考えられる水草の「カワツルモ」Ruppia maritima)が生育しています。

船で南島を訪れる際は、南島の南にある「サメ池」から上陸します。サメ池の名前のとおり、岩場には夜行性のネムリブカが群れで休むことがあります。サメ池も侵食によってできたドリーネの跡です。

千尋岩(ハートロック)
千尋岩(ハートロック)

南島の山頂(標高60m)からは、扇浜全景を見下ろすことができます。反対を向けば、小笠原父島が一望でき、「千尋岩」、通称ハートロックがよく見えます。

貴重な生物が残る南島

自然豊かな南島ですが、実はその自然が荒廃していた時期がありました。1956(昭和31)年頃から、食料とするためにヤギが放牧されました。第二次世界大戦中には食料として獲り尽くされましたが、戦後再び放されました。しかし、時と共に食用としなくなり、ヤギの数が激増します。かつて南島は常緑低木が繁茂していましたが、野生化したヤギの食害により、わずかなタコノキやクサトベラ、そしてヤギが食べないハマゴウやコハマジンチョウが見られるだけとなりました。1971(昭和46)年にヤギが駆除され、その後は植物の種数が順調に回復しています。島の植物としては、紫色の小さな花を咲かせ、葉の香りがよいハマゴウVitex rotundifolia)や、へらのような形の肉厚の葉をもつクサトベラScaevola taccada)が多数見られる他、数多くの植物が見られ、小笠原諸島の固有種オオハマボッスHylaeus ikedai)も生えています。

小笠原諸島の父島では、外来生物のグリーンアノール(別名アメリカカメレオン)というトカゲが固有種を含む昆虫類に壊滅的被害を与え、コウガイビル(陸生プラナリア)の一種で外来種のニューギニアヤリガタリクウズムシが陸生貝類カタマイマイ類を壊滅状態に追いやっています。南島にはそれらが侵入しておらず、父島で絶滅状態のオガサワラトラカミキリChlorophorus boninensis)や、イケダメンハナバチHylaeus ikedai)が生き延びています。陸生貝類としては、小笠原諸島の固有種ボニンスナガイGastrocopta boninensis)や、特別天然記念物に指定されているクビキレガイTruncatella guerinii)が生息しています。南島は自然保護の観点から見てとても貴重な存在なのです。

オナガミズナギドリのヒナ
オナガミズナギドリのヒナ

南島は海鳥の産卵地としても有名です。毎年2月にはオナガミズナギドリPuffinus pacificus)が、4月にはアナドリBulweria bulwerii)、カツオドリ(Sula leucogaster)が営巣のために南島に飛来してきます。カツオドリは崖の上に枝などで巣を作り、オナガミズナギドリやアナドリは岩の隙間や地面に掘った穴に巣を作ります。時期によっては、それらの鳥たちのヒナを観察することができます。

南島付近を飛ぶカツオドリ
南島付近を飛ぶカツオドリ

南島の自然を守る自主ルール

南島の自然を保護するために、小笠原村は南島に関して自主ルールを設けています。島に何も持ち込まず(特に外来種を)、そして、何も持ち帰ることはできません。南島は腕章を着用した東京都自然ガイドが同行しないと上陸できません。ガイドによって南島の自然の理解を深めるための解説や、ルール遵守のための指導がなされています。定められた経路以外は利用できません。最大利用時間は2時間です。1日あたりの最大利用者数は100人で、ガイド1人当たりの利用人数は15人までと決められています。そのため、年末年始・ゴールデンウィーク・夏休みの時期は最大利用者数に達して上陸できない場合があります。冬期には、自然保護のため入島禁止期間があります。

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